知っておきたい事業承継の基礎知識
相続・事業承継基礎
1.タイミング編
■事業承継の準備はいつから始めるべきか
- 一般的に事業承継の準備には5〜10年程度の時間を要する
- 後継者の選定や育成、株式や資産の承継、相続税対策など、様々な準備が必要
- 早めに着手することで、時間的余裕を持って計画的に進められる
- 経営者の年齢が60歳を超えたら本格的に取り組むのが望ましい
- 経営者の年齢が高くなるほど、事業承継のリスクが高まる
- 60歳を目安に、具体的な承継プランの策定と実行に着手するのが理想的
- 突発的な事態に備え、50代半ばからの準備も有効
- 経営者の急逝や不慮の事故など、予期せぬ事態に備えることが重要
- 50代半ばから、承継の基本方針を固め、関係者への周知を始めておくと安心
■業界別の適切な承継時期
- 小売・サービス業:経営者の引退の5年以上前
- 個人的な信頼関係や営業ノウハウの承継に時間を要するため、早めの準備が必要
- 顧客との関係構築や後継者の認知度向上を図る期間を十分に確保する
- 製造業:製品ライフサイクルや設備投資計画を考慮し10年前から
- 製品開発や設備投資のサイクルが長いため、承継タイミングとの整合性が重要
- 業績や財務状況の波を見据えて、最適なタイミングを計る必要がある
- 建設業:業績の波を見極めつつ、引退の7〜8年前から
- 景気変動の影響を受けやすいため、業績が安定している時期に着手するのが望ましい
- 大型案件の受注状況や工事サイクルも考慮し、スムーズな承継を図る
■緊急時の対応方法
- 遺言や後継者指名書の準備
- 経営者の急逝など、突発的な事態に備えて遺言や後継者指名書を用意しておく
- 遺言では、株式の承継方法や経営権の移転について明記しておくことが重要
- 株主間契約や経営権の設計
- 株主間の紛争を防ぐため、事前に株主間契約を締結しておく
- 種類株式の活用などにより、経営権の集中と安定化を図る
- 金融機関や取引先への事前説明と理解の醸成
- 事業承継方針を事前に金融機関や主要取引先に説明し、理解を得ておく
- 承継後の事業継続や資金調達がスムーズに進むよう、関係構築に努める
2.税務対策編
■自社株評価の基礎知識
- 自社株の評価方法には「類似業種比準方式」と「DCF方式」がある
- 類似業種比準方式は、上場企業の株価や業績を参考に自社株価を算定する
- DCF方式は、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて株価を算定する
- 前者は業績や資産内容を反映、後者は将来キャッシュフローを重視
- 類似業種比準方式は、直近の業績や純資産価値を重視する評価方法
- DCF方式は、将来の収益力や成長性を反映した評価方法といえる
- 税務上は原則として類似業種比準方式で評価
- 税務当局は類似業種比準方式による評価を原則とする方針
- ただし、DCF方式による評価も参考情報として考慮されるケースもある
■事業承継税制の活用方法
- 一定の要件を満たせば贈与税・相続税が猶予される
- 事業承継税制の適用要件を満たせば、贈与税・相続税の納税が猶予される
- 株式の贈与や相続時の納税負担を大幅に軽減できるメリットがある
- 株式の贈与や相続時の納税猶予制度が適用可能
- 生前贈与や相続発生時に、自社株式の贈与・相続に伴う納税が猶予される
- 一定期間の経営継続や雇用維持などの要件を満たす必要がある
- 事前の計画的な準備が必要不可欠
- 税制適用のための事前準備や手続きが必要となる
- 早めに専門家に相談し、綿密な計画を立てることが重要
■相続税・贈与税の節税策
- 株式の分散や持株会社の活用
- 株式を分散して保有することで、相続税評価額の抑制が可能
- 持株会社を設立し、子会社株式を保有することで節税効果が期待できる
- 生前贈与や役員退職金の増額
- 生前贈与により、相続財産を減らし相続税負担を軽減する
- 役員退職金を増額し、相続財産から退職金を支払うことで節税につながる
- 自社株評価を下げる種類株式の発行
- 議決権制限株式など、評価の低い種類株式を発行することで株価対策が可能
- 株式の価値を分割し、相続税評価額を抑える効果が期待できる
3.法務対策編
■種類株式の活用方法
- 議決権制限株式や拒否権付種類株式の発行
- 議決権制限株式を発行し、経営権と株式保有を分離する
- 拒否権付種類株式により、一定の事項への拒否権を付与し会社支配を制限する
- 相続税対策と経営権の集中を両立
- 種類株式を活用し、相続税評価額を抑えつつ経営権の集中を図る
- オーナー家族内の納税負担の公平性と、後継者への経営権集中を同時に実現する
- 定款変更と発行手続きが必要
- 種類株式の発行には、定款変更と発行手続きが必要となる
- 専門家のアドバイスを受けながら、適切な手続きを進めることが重要
■定款変更のポイント
- 株式譲渡制限の強化
- 株式の譲渡には取締役会の承認を要するなど、譲渡制限を強化する
- 株主の意向に反した株式譲渡を防止し、経営権の安定化を図る
- 種類株式の発行が可能な規定の新設
- 定款に種類株式の発行に関する規定を設ける
- 柔軟な株式設計を可能にし、事業承継対策の選択肢を広げる
- 取締役の選任・解任要件の見直し
- 取締役の選任・解任要件を見直し、経営の安定性を高める
- 一定の株主による取締役の選任・解任を制限するなどの工夫が考えられる
■議決権の設計
- 後継者に議決権の過半数を集中させる
- 種類株式の活用などにより、後継者に議決権の過半数を集中させる
- 株主総会の特別決議要件を引き上げるなど、議決権設計に工夫を施す
- 安定株主の組成や種類株式の活用
- 安定株主の組成により、経営方針に賛同する株主グループを形成する
- 種類株式を発行し、安定株主に議決権を付与するなどの対策が有効
- 株主間契約による議決権行使の事前取り決め
- 株主間契約を締結し、議決権行使について事前に取り決めを行う
- 株主間の紛争を未然に防止し、経営の安定性を高める
■経営者保証解除のための準備
- 計画的な返済と保証債務の圧縮
- 計画的な借入金返済により、経営者保証の解除に向けて環境を整える
- 保証債務の圧縮に努め、保証リスクを低減させる
- 適切な財務管理体制の構築
- 適切な財務管理体制を構築し、金融機関からの信頼を獲得する
- 事業計画の策定や資金繰り管理の徹底など、財務の透明性を高める取り組みが重要
- 金融機関との信頼関係の維持
- 日頃から金融機関とのコミュニケーションを密にし、信頼関係を構築する
- 事業承継方針を早めに共有し、金融機関の理解と協力を得ることが肝要
4.人事・組織編
■後継者に求められる資質と育成方法
- リーダーシップや経営センスを兼ね備えた人材
- 後継者には、組織をまとめるリーダーシップと経営の舵取りを担う能力が求められる
- 変化に適応し、新たな事業領域を切り拓くセンスも重要な資質と言える
- 経営幹部との信頼関係の構築と社内の支持獲得
- 経営幹部との信頼関係を築き、意思疎通を密に図ることが大切
- 社内の支持を得るため、後継者の人望や実行力を内外にアピールする
- 段階的な権限委譲とOJTを通じた育成
- 徐々に権限を委譲し、後継者の経営への関与を深めていく
- 実務を通じたOJTにより、経営感覚や意思決定力を養う
■後継者育成のステップ
- 課題発見、解決策立案スキルの習得
- 現状分析や課題発見のスキルを身につける
- 解決策の立案や意思決定のプロセスを学ぶ
- 各部門の業務経験とマネジメント経験の蓄積
- 営業、製造、管理など各部門の業務を経験し、事業全体を把握する
- 部下のマネジメントを通じ、組織運営の基礎を学ぶ
- トップの補佐役としての経営参画
- 経営会議への参画など、トップの補佐役として経営に関与する
- 経営の意思決定プロセスを間近で学び、経営感覚を養う
- 経営トップとしての意思決定と責任の遂行
- 経営トップとしての意思決定を下し、その責任を全うする
- リーダーシップを発揮し、組織の方向性を示していく
■従業員への対応
- 事業承継方針の適切な伝達
- 事業承継の方針を従業員に丁寧に説明し、理解を得る
- 承継後のビジョンや組織体制について、適切なタイミングで共有する
- 経営理念の共有と承継への協力要請
- 創業の精神や経営理念を再確認し、従業員との共有を図る
- 事業承継の意義を伝え、従業員の協力を得ることが重要
- 雇用の維持と処遇の安定化
- 事業承継に伴う雇用の維持と処遇の安定化を図る
- 従業員の不安を払拭し、モチベーションを維持するための施策を講じる
■取引先対策
- 円滑な事業承継に向けた理解促進
- 主要取引先に事業承継の方針を説明し、理解と協力を求める
- 安定的な取引関係の維持と、取引先からの信頼獲得が肝要
- 安定供給体制の構築と品質管理の徹底
- 事業承継後も安定的な供給体制を維持できる仕組みを構築する
- 品質管理を徹底し、取引先の信頼に応えていく
- 後継者による信頼関係の継承
- 後継者自らが取引先に挨拶まわりを行い、信頼関係の継承を図る
- 取引先との関係構築により、長期的な取引関係の維持を目指す
中小企業の事業承継は、単なるトップの交代にとどまらず、会社の存続と発展に直結する重要な経営課題です。タイミング、税務、法務、人事・組織など、多岐にわたる課題に対し、計画的かつ戦略的なアプローチが求められます。
事業承継のプロセスは一朝一夕で成し遂げられるものではありません。早期に着手し、関係者の理解と協力を得ながら、ステップを踏んで着実に進めていくことが何より重要です。
オーナー経営者の皆さまにおかれましては、ぜひ本記事を参考に、自社の事業承継について考えるきっかけとしていただければ幸いです。私たち「中小企業相続対策専門相談室」は、事業承継のあらゆる局面で、皆さまの課題解決に全力を尽くしてまいります。お悩みやご相談がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。