家族に承継、他人に承継
「誰に会社を任せるか」――。
中小企業の事業承継を巡る、この永遠の悩み。
血縁者に経営を託すか、血縁関係のない第三者に委ねるか。
それぞれに光と影があることを、オーナー経営者なら誰もが感じているはずです。
「家族経営の理想」と「現実の壁」
同族企業の経営者なら、一度は「自分の代で完結させたくない」と考えるものです。
長年培ってきた事業を、我が子や孫の代まで継続させたい。
その想いは、家業に人生を捧げてきた経営者にとって、ごく自然なものに違いありません。
しかし、家族への事業承継が「理想」で終わるケースは少なくないのが現実です。
その背景には、様々な「壁」が立ちはだかっているからです。
壁1:家の論理が希薄化
かつての同族経営の強みは、日本人が伝統的に持っている「家を継ぐ」という考え方にありました。誰かがこの家を継いでいくというある種の使命感が原動力になり、継続することがほまれでもありました。
しかし、時代と共に価値観は多様化し、家の論理で結束する力は弱まりつつあります。
家の論理に基づいて跡取りが会社の外で働く経験を積んだ結果、家業に共感できずに辞めてしまうケースも珍しくありません。
壁2:親子間の意識のギャップ
経営者の高齢化が進む中、バブル崩壊前後の経済の盛衰を知らない世代がビジネスの最前線に立つようになりました。
親の苦労に寄り添う意識が薄く、学歴が高く新卒で高給で迎えられる世代は、親の苦労を見て育っただけに、継ぎたくないとの意識を持ってしまいます。
そんな親子間の意識の断絶が、家族内の事業承継を阻む要因となっているのです。
壁3:業績低迷による後継者難
業績悪化に苦しむ中小企業では、幹部社員はおろか一般社員の採用もままならない状況に追い込まれています。特に地方の中小企業ではそれが顕著に現れています。
慢性化した人手不足は後継者を支援する中堅幹部の採用難でもあります。
後継者が戻る環境、育つ環境が整わないの現状です。
理想と現実の間には、どうしても埋めがたい溝が生じてしまうもの。
「家族経営の理想」に固執するあまり、かえって会社の未来を危うくすることのないよう第三者後継の道も常に検討する必要があります。
第三者承継のメリットと留意点
オーナー企業が第三者承継を選択するケースが増えつつあるのも事実です。
「良い後継者に恵まれなかった」というネガティブな理由だけでなく、経営の革新を求めての決断も少なくありません。
それだけ、第三者承継のメリットへの認識が広がりつつあると言えるでしょう。
第三者承継の主なメリットを挙げると、以下のような点が考えられます。
メリット1:経営手法の刷新
「わが家の常識」に縛られない発想で、経営改革を進められる可能性が高まります。
社内の因習に囚われない第三者だからこそ、大胆な変革を実行できるのです。
メリット2:組織風土の改善
創業家一族の「所有意識」から解放され、従業員の主体性が高まることが期待できます。
公平な人事評価と、実力主義の登用が進むことで、人材能力の向上もつながります。
メリット3:個人と会社の分離
同族経営の良さでもあった、創業者一族の個人財産や個人保証に支えらられた経営は、一族の高齢化と共に、否応なく相続問題と共に個人財産と法人財産の分離を迫られてきます。自社株についても創業家との新たな関係の構築が求められてきます。これらは会社経営に新しい風を送る事にもなり、メリットとする事もできます。
第三者承継の留意点
一方で、第三者承継には独特の留意点もあります。
留意点1:企業文化の継承
企業文化の継承は細心の注意が必要になります。ともすれば新しい経営者は先代の足跡を消してしまいたい欲望にかられる事もあります。安易な「社風の破壊」は、従業員の反発を招く恐れもあります。
留意点2:取引先との関係維持
創業家には資産があり、新社長は財産が無い…というのもよくあるケースで、金融機関の引き継ぎに苦慮する要因です。金融機関に限らず先代からの信用でつながってきた取引先も不安を感じるのが普通と考え関係の維持に注意する必要があります。
留意点3:株式評価の適正化
親族間承継に比べ、第三者への株式譲渡には税務上の不利が伴います。
株式評価の適正化など、専門家の力を借りた十分な対策が欠かせません。
「家族に承継」か、「他人に承継」か。
その選択は、会社の置かれた状況によって千差万別だと言えるでしょう。
経営者の「想い」を大切にしながら、事業を承継する事を目的地に、できる限り長いスパンで計画する事が大切です。短絡的にM&Aを考えるより、「承継しやすい会社」は高値で売れる可能性がある会社…と考えて後継計画を進めて行く事が重要です。
経営の形はひとつとして同じものはありません。だから事業承継の形も一つではないのです。
中小企業相続対策専門相談室は、中小企業の事業承継の多様性を応援します。
「家族に承継」のお手伝いはもちろん、「他人に承継」という選択肢もご提案させていただきます。
オーナー社長の重い決断を支援すべく、私たちは全力でサポートいたします。