保証債務は相続される
中小企業の経営では、金融機関からの借入れに際して、代表者による連帯保証が求められるのが一般的です。しかし、この保証債務は、代表者の死亡により消滅するわけではありません。ご存知でしたか?実は保証債務は相続の対象となり、相続人に引き継がれるのです。
連帯保証債務とは
連帯保証とは、借入企業が返済不能になった場合に、代表者個人が借金を肩代わりする契約のことを指します。中小企業の場合、経営者が個人保証をすることで、銀行からの信用を得られるメリットがあります。
ただし、連帯保証には大きなリスクが伴います。会社の経営状態が悪化した場合、代表者個人の財産にまで影響が及ぶ可能性があるのです。
相続による保証債務の承継
連帯保証人が死亡した場合、その保証債務は相続財産に含まれます。つまり、相続人が保証債務を引き継ぐことになるのです。
問題は、後継者以外の会社に直接関係ない相続人にとって、保証債務は「会社債務のリスク」でしかないということ。会社経営に関与していない相続人にとって、保証債務の存在は大きな負担となります。
<事例:父親の死亡に伴う連帯保証債務の相続>
父親が経営する中小企業に、1億円の借入金があったとします。この借入れには、父親が連帯保証人となっています。相続人は子供3人です。
父親が急逝し、長男が会社を承継したケース。連帯保証債務はその承継者が銀行に認められて承継が決まるまでは、連帯保証債務1億円も相続人に承継されることになります。
会社経営に無関係な次男や三男にとって、保証債務の相続は、耐え難い負担と言えるでしょう。
遺産分割協議における留意点
こうした事態を避けるには、遺産分割協議の際に保証債務の取り扱いを話し合っておくことが大切です。ただし、遺産分割協議だけで保証債務の相続は決まりません。銀行との新たな契約が済むまで亡くなった方の保証債務は無くなりません。
具体的には保証債務の対応には以下のようなアプローチが考えられます。
自社株式には換金性がないため、相続人(特に後継者以外)にとっては大きな負担となることが予想されます。
1.保証債務を承継しない
保証契約の解除と新たな個人保証の無い融資締結を金融機関に相談し実行することです。
ただし、会社の財務状況等によっては金融機関の同意が得られない可能性があります。
2.保証債務を後継者が一人で引き受ける
事業を承継する後継者が、保証債務の全てを引き受ける方法です。
その場合、遺産分割協議で後継者以外の相続人と遺産分割の調整が必要になる可能性があります。
3.死亡保険金で債務を返済する
経営者が生命保険に加入していれば、死亡保険金で債務を弁済する方法です。
ただし、死亡保険金の受取人が会社である場合と個人である場合のいずれにせよ、受取人が実行するかしないかの判断をすることになります。
いずれの方法を選択する場合も、相続人全員と会社や金融機関も含めた合意形成が大前提となります。保証債務の問題は、相続人間の感情的な対立を招きやすい問題で、かつ相続人だけでは決められない厄介な問題になるケースが多くあります。
事前対策の重要性
代表者の連帯保証は、中小企業経営に欠かせない慣行と言えます。むしろ、経営者交代のタイミングを活用して、保証債務の整理をしてリスクをコントロールしていくことが賢明と言えるでしょう。
1.保証債務の棚卸し
定期的に保証債務の内容を見直し、不要な保証は解除を求めていきます。銀行だけでなく、リース会社や賃貸契約の保証も調べておく必要があります。
保証期間や保証極度額など、引き継ぎやすい保証契約に切り替えていくことも有効です。
2.経営の透明化
会社の財務内容を家族や会社幹部で共有し、保証債務に関する理解を深めておくことが大切です。
情報が共有されていないと、相続人間あるいは社長の家族と会社の間の不信感を生む温床になりかねません。
3.生前の処分の検討
相続発生前に、法人資産や個人資産を使って保証債務を整理しておくことも一案です。
ただし、 譲渡所得税や贈与税の課税の問題もあるため、税理士など専門家に相談する必要があります。
4.生命保険契約の締結
経営者の死亡により会社の存続が危うくなる事を防ぐために、生命保険契約は活用する事が必要です。必要付保額は専門家と相談しながら進めていく必要があります。
保証債務の問題は、中小企業の事業承継における大きな障壁の一つです。経営と家族の両方の視点から、総合的に対策を講じていくことが求められます。
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