両親の面倒を誰がみてあげるのか
長年に渡り事業を営んできた創業家の両親が高齢になり、介護が必要な状態になったとき、誰がその面倒を見るのでしょうか。中小企業の経営をほぼ横目にしか見てこなかった家族が、当の両親の面倒を見ることになるとしたら…そんな事態に直面している人は、意外と多いのかもしれません。
創業家の「家族」としての事情
中小企業の創業家の多くは、事業と家族が密接に結びついた状態で経営が行われてきたはずです。ある意味、「会社=家」と言っても過言ではありません。
しかし、そうした環境で育った子女たちの意識は、一様ではないことに注意が必要です。
【長男・後継者の場合】
幼い頃から「跡取り」として育てられ、会社経営に深く関与してきた。
親の面倒を見るのは当然の責務と感じているかもしれない。
【次男以下の場合】
会社経営にはあまり関心がなく、実家を出て独立しているケースが多い。
親の介護を引き受けるのには、正直、消極的かもしれない。
【姉妹の場合】
男兄弟に比べて、親の介護を期待されるケースが少なくない。
自身の家庭との両立など、複雑な思いを抱えている可能性がある。
こうした意識のギャップが、両親の介護をめぐる家族内の対立を生むのです。特に、事業用資産と介護の負担割合の関係が、大きな争点となるケースが少なくありません。
「親の介護」が争族化するリスク
両親の介護問題は、時として相続人間の深刻な対立を招く危険性があります。
両親の介護を巡って相続人間で対立が生じると、単なる家族の問題にとどまりません。会社経営にも大きな影響を及ぼしかねないのです。
〈事例:介護費用の負担割合を巡る対立〉
創業者である父親が要介護状態になり、自宅での介護が必要になったとします。
資産家である父親名義の預貯金は、介護費用に充てられることになりました。
しかし、父親の介護を担う長女は、「一人で面倒を見ているのに、介護費用は平等に負担とは納得できない」と主張。
一方、会社経営に専念する長男は、「会社を回すので精一杯。介護まで手が回らない」と反論します。
預貯金の引き出しを巡って、長男と長女の対立が深まっていくケースです。
このように、介護を行う相続人と、会社経営を担う相続人の間で、費用負担や遺産分割を巡る対立が生じるリスクは小さくありません。
こじれた場合、介護に必要な資金が滞り、結果的に創業者夫婦が不本意な介護環境に置かれてしまう可能性すらあります。
対立が事業承継問題にまで発展し、会社の存続を揺るがすケースも考えられます。
「親の介護」を争族化させないために
では、創業家の高齢化に伴う介護問題に、どう立ち向かえばよいのでしょうか。
ポイントは、「介護は特定の個人の問題ではなく、家族全体の問題である」という認識を共有することです。
その上で、以下のようなステップを踏んでいくことが重要だと考えます。
ステップ1:介護に関する家族会議の開催
将来を見据え、両親の介護について家族で話し合う場を設けましょう。
理想的な介護のあり方や、費用負担の考え方など、率直に意見を交わすことが大切です。
両親の意向も十分に尊重しつつ、冷静に議論を進めることを心がけましょう。
ステップ2:介護と経営の役割分担の明確化
誰が介護を担当し、誰が会社経営に専念するのか、役割分担を明確にしましょう。
その上で、会社から介護担当者への金銭的なサポートの方法なども、ルールを決めておくと良いでしょう。
各自の事情を互いに理解し、歩み寄ることが求められます。
ステップ3:介護費用の準備と管理方法の検討
介護には多額の費用がかかることを認識し、計画的な準備を進めましょう。
両親の預貯金や不動産の活用、介護保険の利用など、様々な選択肢があります。
費用の管理方法についても、家族で話し合い、ルール化しておくことが大切です。
ステップ4:家族信託の活用も視野に
「家族信託」の仕組みを活用できると良い仕組みが作れます。
両親の財産を信託財産とし、介護と運用の担当者を定めることで、透明性の高い管理が可能になります。また、高齢になった経営にの認知症対策にも有効です。さらに、遺産分割の対策として遺言同様に使うことも可能です。
家族信託は、信託会社を通すこと無く家族間で行えることもメリットですが、導入には専門家のアドバイスが欠かせません。
ステップ5:第三者の力を借りる
困難な課題には、外部の専門家の力を借りることも重要です。
介護や高齢者の財産管理の専門家に相談することで、家族内の感情的対立を避けることができるでしょう。
中小企業の相続を数多く扱っている中小企業そう対策専門相談室は、良き相談相手になってくれるはずです。