個人と会社の財産の分離にかかる税金
中小企業のオーナー経営者にとって、「会社の財布が自分の財布」という意識は自然なことと言えます。
創業期の苦労を乗り越え、事業を軌道に乗せた立役者だからこそ、会社の財産を自由に活用したいと考えるのは無理もないでしょう。また、がむしゃらに事業を拡大する中で個人と法人の分離を考えるゆとりもなかったかもしれません。しかし、個人と会社の財産が混在すると、事業承継の際に大きな障害となることがあります。
この記事では、個人と会社の財産の分離について、特に税務の観点から解説していきます。
オーナー企業にありがちな状況
まず、オーナー企業での財産の混在の具体例を見てみましょう。
1.会社の不動産に創業家が住んでいる
創業家が会社名義の自宅に住んでいる。
2.個人名義の不動産を会社に貸している
個人所有の不動産を事業用に貸し出し、賃料収入を得ている。あるいは個人所有の土地に会社名義の建物が建っている。
このような事例で、所有と使用の権利関係が複雑になっている場合が多くあります。
3.役員借入金・貸付金の存在
会社と個人の間で、お金の貸し借りが行われ、処理が後回しにされているケース。
こうした状況は、経営者の「オーナー意識」からすれば、それほど不自然には感じられないかもしれません。しかし、いざオーナー経営者の相続や会社のM&Aに際しては、これらが評価上も税務上も大きな課題となってしまうのです。
財産分離の必要性
なぜ、個人と会社の財産の分離が必要なのでしょうか。大きな理由は以下の3つです。
1.相続税・贈与税の問題
個人資産と会社資産が明確に分かれていないと、評価の方法が複雑になり、相続財産の承継の権利関係があいまいになり、予期せぬ相続人と会社あるいは税務署とのトラブルが生じかねません。特に自宅の問題は家族が相続後に安心して暮らせるかどうかに不安を抱かせる課題となります。
2.事業承継の阻害要因
後継者への事業承継を考える際、個人資産と会社資産が分離されていないと、権利関係が、複雑になりスムーズな承継が難しくなります。
例えば、会社の事業に不可欠な不動産が個人名義だと、相続発生時に遺産分割、相続税の問題から事業の存続に支障が出る可能性があります。
これらの問題を放置したままにしておくと、資産の名義の移転に際して、譲渡に関する所得税、贈与税、相続税が思わぬ形で発生してしまいます。
3.経営の透明性の欠如
個人と会社の間のお金の流れが不透明だと、会社の経営状態が正確に把握できません。
金融機関からの信用力の低下にもつながり、円滑な事業承継の障害となる可能性があります。
こうしたリスクを回避するためには、早いうちから計画的に個人と会社の財産を分離していくことが不可欠だと言えるでしょう。
財産分離の具体的な方法
それでは、個人と会社の財産を分離するためには、どのような方法があるのでしょうか。ケースに応じて、以下のような対策が考えられます。
1.自宅の問題への対応
・会社名義の自宅を個人に売却する。創業者の退職時に退職金として自宅を渡す方法もあります。
・自宅部分を会社が個人に適正家賃で賃貸する。
※賃貸はいずれ創業家が会社に関わらなくなると、修繕や建て替えの時に問題は発生します。
2.事業用不動産の移転
・個人名義のまま、会社に適正な家賃で契約して賃貸する。
・個人名義の事業用不動産を会社に売却する。
3.役員借入金・貸付金の解消
・役員借入金は、増資か返済で計画的に無くしていく。また、債務免除により無くしてしまう方法も検討する。
・役員貸付金は、役員報酬や配当の増額あるいは退職金で計画的に返済する。
4.資産管理会社の設立
・資産管理会社で創業家の自社株を買い取って法人株主とする。
・個人資産で会社利用の不動産については、資産管理会社を設立して法人対法人の関係を作っておく。
・会社資産で個人利用の不動産は資産管理会社で買い取る等する。
これらの方法を実行する際は、適正な時価での取引や、法人個人に課税が発生するので、税務上のリスク管理など、専門的な判断が欠かせません。安易な資産移転は、かえって贈与税や譲渡所得税の問題を引き起こしかねないので注意が必要です。
専門家の支援を受けることの重要性
個人と会社の財産分離は、単なる資産の移動ではありません。会社の承継計画や資金計画、家族の将来設計など、様々な要素を考慮した総合的な判断が求められます。
特に、課税コストを考えた税務面からのアプローチは欠かせません。財産分離の方法や時期の選択が適切でないと、贈与税や所得税、不動産取得税など、様々な税金が思わぬ形で発生するおそれがあるからです。
中小企業相続対策専門相談室は、会社と個人の財産の線引きを専門家の視点から支援いたします。税理士・公認会計士・弁護士・司法書士など、各分野のプロフェッショナルが連携し、オーナー経営者の皆さまの状況に合わせた最適な財産分離プランをご提案します。
会社と個人の財産の線引きは、事業承継対策の出発点とも言える重要な課題です。漠然とした不安を抱えたまま放置するのではなく、ぜひ私たちの無料相談サービスをご活用いただき課題をご確認ください。私たち専門家の経験を活かしながら、会社と個人の未来を守るための一歩を踏み出してみませんか。